薄暗い通路に、男の洗い息遣いが響いている。
彼は血走った目で、ぶつぶつと何事かを呟きながら、しきりに時計を気にしているようだ。
と、そこに新たな音が加わった。
ザシュッザシュッザシュッ…
男がはっと顔を上げる。
「き、来た…ついに…奴らが…入って来た…このイナバ物置に…!!」
青ざめた男の脳裏に、ここに至るまでの出来事が走馬灯のように駆け巡った。
…………
姑息な手段でアリーナ入口の敵を殲滅したモンキーは、更に先へと進む。
時には姑息に後ろに下がり…
時には思わぬところにタレット様を設置して…
敵の弱点を容赦なく突き…
ホワイトボードにタレット様を設置してみたり…
待ち伏せする敵をスルーして逃げ帰ったり…
ザリガニでも釣るかのように敵をおびき出したり…
タンクがめんどくさがって近づいてこないところで戦い…
そしてついに…
モールエリア、通称死のモールまで辿り着いたのであった。
流石のモンキーも、モールを前に立ち止まった。
ここはまさに死のエリア。
数知れない仲間(自分ね)がここで命をたらせたのだ。
死んでいった仲間達の情報を総合すると、ここの戦い方は大きく2つ。
1つはモールに入って一気に最上階である3階まで駆け上がる方法。
この方法のメリットは全体が見渡せる、かつ敵の来るルートが制限されることだ。
ただし難点もある。
それは、その3階から、忌々しいタンクが2人も増援で現れることだ。
恐らく火力がもっとあれば、もしくは的確に撃ちぬける実力があれば、3階でもなんとかなるのかも知れない。
モンキーはこの3階で戦うルートを"勇者ルート"と呼んでいた。
そしてもう一つのルート。
モンキーはこのルートを"イナバルート"と呼んでいる。
というのもモールの入口は、なんというか物置みたいな金属製の箱になっている。
この物置みたいなとこに閉じこもって戦うのだが、この物置がどれだけ爆撃されようが撃たれようが壊れないのだ。
そしてその中に閉じこもりながら、「さすがイナバ、100人乗っても大丈夫!ってね」と誰かが呟いたのがイナバルートの由来である(ほんとかよw)。
まあとにかく、イナバルートであってもタンクが迫ってくるのには変わりなく、逃げ場もないので結局死闘になるのは違いないのであった。
そして今回モンキーが選んだのは勿論…
「いやー、やっぱり勇者だよな〜勇ましいもんねやっぱり、いや〜そんな物置に芋るとかね〜ないないそんなねぇ〜」
といいつつ、イナバ物置に居座るモンキー。
「いや〜やっぱ勇者ね、いいんだよねぇ〜、でもなぁ〜ちょっと見つかりそうというか、見つかると思うからなぁ〜仕方ないよね!」
どうでも良い言い訳を並べ、おもむろにタレット様を出来る限りモールの中央に設置する。
そして大急ぎでイナバ物置へ!!
そこに殺到する弾丸の嵐、吹き荒れる爆風。
しかし…
「さ、さっすがイナバ、100人乗っても…」
ヒュルルルルルーチュドォォォォォン!!
「だ、大丈夫…!」
ただこのイナバ物置、欠点がある。
それは、敵の姿がほとんど見えないことだ。
なのでどの敵を攻撃するか、撃破できるかはけっこう運次第なところもある。
そんな状況でも、なんとしても撃破したい敵がいる。
それがグレネーダーである。
「エアバースト発射っ!!」
とか言ってグレネードを撃ってくるのだが、お腹に四次元ポケットでもあるのだろうか、めちゃくちゃ連発してくるのだ。
この連続攻撃に巻き込まれると、かなりの確率で天に召されることになる。
後半にタンクが来ることを考えると、是が非でもグレネーダーだけは撃破したいのだった。
そして次の優先ターゲットは言わずもがな、ク◯戦車ことミニタンクである。
ただこいつらはダメージを受けると飼い犬のごとく飼い主の元へ戻って行って撫で撫で、もとい修理されてしまう。
射線が通れば戻っているうちに撃破できるのだが、いかんせんイナバ物置の中からでは狙い辛く、倒せればラッキー程度にモンキーは考えていた。
モンキーはイナバ物置に守られながら、
と祈る。
やつらは姑息なことに、3階などの狙いにくい場所に陣取り、一方的に攻撃して来ることが多い。
ただ今回は運が良かったのか、グレネーダーたちは下に降りて来てタレット様の餌食となっていく。
「はーはっはっはっはっはっはっはっ!!!死ぬがいい雑魚どもがぁ!!」
中国の古い言葉にこういうものがある。
"虎の威を借る狐"。
いや、この場合は"虎の威を借る猿"か。
相変わらず自分は何もしていないのに調子に乗る残念な男であった。
しかし驚くなかれ、この後、この男に死の試練が訪れるのであった...
それはモール内の第一陣があらかた片付いた頃...
ついにタンク達が現れたのである。
「来やがったな…」
さしものモンキーも緊張で顔が引きつっている。
彼は大急ぎでタレット様をモール中央に配置しようとした。
「って…ぎゃあああああっ!??」
だが思ったよりもタンクたちが近くにいたらしい。
激しく銃撃され、あっという間にアーマーが禿げる!!
「ぐおおおおっ!??負けるかぁぁぁぁっ!!」
死に物狂いでタレット様を放り投げ、イナバ物置へ避難!!
臆病風に吹かれてアーマーを多めに積んでいたのが功を奏し、ギリギリのところで設置に成功した。
しかし安心してはいられない。
今回設置したタレット様は、言わば時間稼ぎなのだ。
タンク以外にも敵が殺到してくるため、全てを捌ききるのは不可能。
それはつまり、最後はイナバ物置の中で戦うことを意味していた。
モンキーは大慌てでリストアラーハイブを手に持ち、ぽいっと設置した。
さすがにアーマーが削られたままでは即死だからだ。
回復しながら、待つ。
すると、外でタレット様が破壊される音がした。
近づいてくる足音。
タレット様復活まで…15秒…14…13…12…
足音はどんどん大きくなっていく。
薄暗い通路に、男の洗い息遣いが響いている。
彼は血走った目で、ぶつぶつと何事かを呟きながら、しきりに時計を気にしている。
6秒…5…4…
ザシュッザシュッザシュッ…
モンキーがはっと顔を上げる。
「き、来た…ついに…奴らが…入って来た…このイナバ物置に…!!」
2秒…1秒…
「ふぁぁぁあ…よく寝た…待たせた…」
タレット様が何事か呟くのを無視して速攻で放り投げるモンキー。
タンクがぬっとイナバ物置に入ってくるのと、タレット様の配置は…ほぼ同時!
すんでのところで間に合ったようだ。
しかし安心ばかりはしていられない。
何故なら…
プシューッ!!ズバババババっ!!
「ギャァァァァアっ!!!」
タンクの背中から発射されたスティンガーハイブが、イナバ物置の壁を貫通してモンキーに突き刺さった!!
狭いイナバ物置の中ではもう、撃たれるがまま…
ボロボロになったアーマーは、しかしリストアラーハイブによって修復された。
「おらおらおらあああっ!!かかってこんかいいいいっ!!」
ズババババッ!!
「ぐはっ!」
回復ピュリリリーン
「はぅん…」
ズババババッ「ぐはっ」
ピュリリリーン「はぅん」
……
イナバ物置での対タンク戦術…
それはずばり、殴り合いである。
モンキーはこの戦術を、"幕の内一歩スタイル"と名付けていた。
流血と回復を繰り返しながら、タレット様と共にLMGを打ち込むモンキー。
「ぐはっはぅんぐはっはぅん死ねやぁぁあ!!!はぅん」
壮絶な殴り合いの末、ついに一人目のタンクが崩れ落ちた。
「っしゃぁぁぁっ!!!ぐはっ!はぅん!」
しかし続け様に次のタンクが襲ってくる。
徐々にリストアラーの残量も減り、タレット様も削られていく。
「ま、負けるかぁぁぁぁっ!!」
最後の力を振り絞り、全力で攻撃するモンキー。
そしてついに…
「うおおおおおっ!!!エイドリァァァァン!!!」
暗い倉庫に勝利の雄叫びが響いた。
その後のことはよく覚えていない。
犬やらミニタンクやらが出て来たが、アドレナリンマックスのモンキーの敵ではなかった。
やがて最後の銃声が響き、後にはエージェントが1人立っていた。
こうしてモールの死闘はモンキーの勝利に終わったのであった。
続く?
この時のビルドはこれです。よければどーぞ。
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